真備の笑顔のために

真備の現状を伝え、関係人口を増やしたい。株式会社ホリグチが行なう、サイクリングロードや「真備でなんしょん」など事業者支援の今

2023年3月31日

全地域 活動報告

平成30年7月豪雨災害から4年半が過ぎました。真備の各所では、災害に強いまちづくりをしようと様々な取り組みが行なわれています。

 

支援活動のなかでも、飲食店をはじめとする事業所の支援を行なってきた方がいます。真備に事務所を構える、株式会社ホリグチの代表取締役であり、真備船穂商工会 青年部で活動の中心を担われた堀口真伍(ほりぐち しんご)さんです。

 

災害発生時から、事業所の支援を行なってきた堀口さん。活動は広がりを見せ、現在ではサイクリングロードや「真備でなんしょん」などの取り組みを継続しています。それぞれどのような活動なのか。またどのような経緯を経て現在の活動に至っているのかを、堀口さんに聞きました。

 

災害を機に、事業所支援に邁進

災害を機に、事業所支援に邁進

 

―災害発生時、堀口さんはどのような状況でしたか?

 

堀口:
災害を目の当たりにして、本当に大変なことが起きたと思いました。個人としてはお寺に逃げ込みましたが、水上バイクで救出活動をしていた方がいたので、一緒に活動したのを覚えています。

 

会社は無事でした。山の近くにあるので。自宅もギリギリのところで無事でした。ですが周りはほとんど浸水被害があって、何かできることはないだろうかと常に考えましたね。

 

―具体的に行なったことはありますか?

災害を機に、事業所支援に邁進

 

堀口:
私も所属していた県内の商工会の有志で、事業者さんを支援することにしました。ボランティアのみなさんは住宅支援が最優先だったので、僕らは事業者さんのもとに行こう、と。仕事柄、顔見知りの方が多かったですから。

 

まず行なったのは、水の配布です。ありがたいことに経営者仲間から多くの水や物資が届いていたので、それを配ることにしました。動ける仲間が手伝ってくれて、軽トラックで運んでいましたね。飲食店さんや車屋さん、色々な事業者さんを回りましたが、どこもドロドロで……。被害を見て、再建を諦める仲間もいるほど大変な状況でした。

 

とはいえ、支援を諦めたくなかった。我々としては事業者さんの復興をお手伝いしたかったんです。それが後の雇用になり、真備の活性化に繋がると思ったので、どうにか今できることはないかと考えました。

 

印象に残っているのは、各事業者さんの駐車場に置かれたごみを片付けたことです。知らない間にごみをどんどん置かれてしまって、事業者さんが片付けたくても片付けられない状況でした。「ごみを片付けてくれたら嬉しい」の声をきっかけに、1か月間くらいは活動を続けていたと思います。

 

駐車場を片付けたり、事業所内を水で洗ったりと、少しずつ活動をするなかで、事業者さんが前向きになっていく瞬間がありました。「堀口さん、店をもう一度やってみます!」と言われたときには、活動を続けてよかったなと思いましたね。

 

―事業者さんにとっても心強かったと思います。

災害を機に、事業所支援に邁進

 

堀口:
僕自身、みなさんの「もう一度がんばりたい!」という思いに力をいただきました。

 

個人としても、秋祭りや花火の打ち上げなどに携わりましたよ。秋祭りについては、岡田小学校のPTA会長として提案させていただきました。当然、災害によりPTA活動はストップしていましたが、「今年の6年生が神輿を担げないのは悲しいな」と思ったんです。まちづくり推進協議会や幼稚園のPTAのみなさんと協力して、開催させていただきました。

 

安全上の観点から、神輿を担いで歩けたのはたった200m。それでも子どもたちは神輿を担いだら笑顔になるし、それを見ている大人も笑顔になりました。反対意見もいただきましたが、やってよかったと思っています。

 

また花火の打ち上げは、倉敷青年会議所のOBとして協力しました。後輩の熱い思いを受けて一緒に活動したのですが、これもやってよかったですね。花火については、子どもは笑顔になり、大人は涙を流していました。その対比にぐっとくるものがありました。

 

色々と活動してきましたが、実現できなかったこともあります。それでもとにかく、真備のためにできることはないかと考え続けていました。

 

時間軸が縮まった今やるべきことは「関係人口をどう増やすか」

堀口真伍(ほりぐち しんご)さん

 

―災害や災害後の活動を通して、感じたことを教えてください。

 

堀口:
強く思ったのは、災害は時間軸を縮めてしまうんだなということです。

 

平成30年7月豪雨災害があって、人口減少が顕著に現れています。令和2年時点では、真備の人口が10%減ったというデータがありました。ちなみに全国平均は年間0.3%~0.5%。全国的に20年先に来るだろうと危惧されている未来が、真備町では急に目の前に来たんです。「先々不安になるだろうな」と思っていた問題がいきなり突き付けられたようで、これはまずいと思いました。

 

真備を離れた人に、いかに帰ってきてもらうか。新しく真備に住みたいと思う人を、いかに増やすか。次に私たちがやることは、バラバラになった地域のコミュニティを繋ぐことだと思ったんです。

 

―事業者さんの支援を通して真備全体を見てきた、堀口さんならではの視点ですね。

 

堀口:
つまり関係人口をどう増やすか、だと考えていました。

 

ボランティアさんや工事業者さんは、真備が安心安全に過ごせるようになったらそれぞれの場所へ帰っていきます。今後はどのように人と人が関わる機会を増やしていくかが、大切な視点だと思いました。

 

そこで、真備に昔からある観光資源と新しいものを組み合わせられないかと思いまして。観光地や復興のシンボル、真備にあるお店などを訪れたくなるような、サイクリングロードの設定と「真備でなんしょん」の企画が始まっていきました。

 

サイクリングしながら今の真備を見てほしい

堀口真伍(ほりぐち しんご)さん

 

―サイクリングロードとはどのような取り組みですか?

 

堀口:
真備の災害にまつわる場所や、観光地をサイクリングで巡るコースを設定し、関係人口を増やそうとする取り組みです。

 

現在は2つのコースがあります。「古代吉備の悠久ロマン」コースと、「真備復興への軌跡」コースです。前者は真備ふるさと歴史館や箭田大塚古墳、二万大塚古墳など、古墳群や吉備真備ゆかりの地を巡るコース。後者は平成30年7月豪雨災害の碑やオレンジライン、復興防災公園など、小田川沿いに真備を横断し、現在の真備を巡るコースになっています。

 

初めは地域活動として行なっていましたが、今では倉敷市さんが正式にサイクリングロードを整備すると決まったところです。サイクリングできるコースも、さらに増えたらいいなと思っています。

サイクルスタンド

―堀口さんは、サイクリングロードにどのような関わり方をしているのでしょうか。

 

堀口:
私としては、弊社で自転車を停めるオリジナルのサイクルスタンドを作り、飲食店などの事業所さんに寄贈させていただいています。

 

関係人口をどう増やすかを考えていたときに、他県の事例でサイクリングの取り組みを知ったんです。弊社は木工業者なのでサイクルスタンドは作れる、と。真備でもサイクリングで何かできるかもしれないと、思うようになりました。

 

そんな時に突然、「堀口さん、サイクルスタンドを作ってあげてや」と声をかけられました。その方は真備に住む、木谷(きたに)さんという方です。同じことを考えていたので、声を掛けられたときはびっくりしました。さらに伺ってみると、ご自身がサイクリングが大好きとのこと。サイクルスタンドを店に置くことで真備をサイクリングのまちにできないか、と構想を持たれていました。

 

本来であれば、急なご依頼を叶えることは難しいと思います。ただ僕が木谷さんと同じことを考えていたため、構想に乗っかることにしました。災害だけでなく、新型コロナウイルス感染症の影響も事業者さんは受けているので、少しでも支援できればと思っています。

 

―堀口さんの活動は、やはり事業者さんへの支援が軸なのですね。

 

堀口:
そうですね。真備は個人店が多いですから、店を続けるも辞めるも個人の判断になるわけです。店があると人は集まるし、人がいないと店もできない。真備の未来のために、どうにか一緒にがんばりたいと考えていました。

 

災害が起きて苦しいことも多かったけど、いい変化もあったと思います。災害前はそれぞれの店でがんばっていた印象でしたが、災害をきっかけに「みんなでがんばろう」という気持ちに変わったような気がします。魅力的な店が多いし、災害後もがんばって復活しているので、ぜひサイクリングしながら今の真備を見てほしいですね。

 

真備の現状を知り、足を運んでもらえるきっかけに

真備でなんしょん

―「真備でなんしょん」はどのような取り組みですか?

 

堀口:
「真備でなんしょん」も、今の真備を伝えるために始めました。事業所さんに「真備でなんしょん」と書かれた木製プレートを置かせていただき、写真を撮れるようにしています。お客様がSNSに投稿するときに、「#真備でなんしょん」のハッシュタグを付けていただく取り組みです。

 

実は「真備でなんしょん」も、木谷さんのご提案で始めました。「真備の店に行った人に発信してもらえるようなプレートを作ったらどう?」とおっしゃっていて。「真備でなんしょん」以外にも、「真備どねいしよん」とか「真備どうなっとん」とか色々な案があったなかで、一番キャッチ―な言葉を選びました。

真備でなんしょん

 

―今後はどのように活動していきたいですか?

 

堀口:
地域に関わるなかで一番いいのは、楽しんで活動することだと思います。楽しく活動することで長続きするかと。バカ言いながら、笑顔で楽しく続けること。僕たちは真備に生き、真備を生きていかないといけない。そんな暮らしに対する挑戦を、真備に住む個人・事業者さん一人ひとりが考え、繋がり合って活動できたら、さらに楽しい地域になると思っています。

 

また、何を行なうにも関係人口を増やすことや、今の真備を知ってもらうことを第一に考えたいです。ありがたいことに、「今の真備はどうなってるの?」と問い合わせをいただく機会もあります。真備が気になっている方は大勢おられると思いますので、真備に住んでいる人はどんどん真備を発信してほしいと思っています。真備の現状を見てもらって、足を運んでもらえるきっかけになれば嬉しいなと思います。