被災者から被災者へ。重機ワークショップを通して繋ぐ、自ら支援活動できる地域を目指して ~箭田地区が取り組む、災害に強いまちづくり~
全地域 活動報告
平成30年7月豪雨災害から4年半が過ぎました。真備の各所では、災害に強いまちづくりをしようと様々な取り組みが行なわれています。
令和4年度に、箭田地区では重機ワークショップを開催しました。重機を操縦する資格を取得するための出張特別教習と、災害地で被災者の方たちや一般のボランティアの皆さんと活動するための重機操作を学ぶワークショップです。
目的は、有事の際には自分たちで片付け、自らの力で復興に向けて進むこと。また他の地域で災害が起きたときに、助けに行ける状態を作ることも目指しています。
重機ワークショップの運営に携わるのは、一般社団法人 ピースボート災害支援センター(以下、PBV)の川村勇太さん・美保子さん、一般社団法人 OPEN JAPAN(以下、オープンジャパン)の萬代好伸さん、箭田地区まちづくり推進協議会(以下、箭田まち協)事務局長の守屋美雪さんです。PBVと箭田まち協が共催し、講師としてオープンジャパンが企画協力しています。
災害に強いまちづくりをするうえで、なぜ「重機」に注目したのでしょう。それぞれの立場から話を聞きました。
持続的なまちづくりの一環として、地域で防災の担い手を育成する機会を提供する【PBV】
―重機ワークショップ開催のきっかけを教えてください。
川村勇太(以下、勇太):
箭田まち協さんから相談を受け、スタートしています。災害に備えて、自分たちでスキルアップできることはないかと考えていたときにあがったのが重機の操縦でした。
被災地では、支援団体の到着が遅れることがあります。外からの支援を待つだけではなく、地域のみなさんが自分たちで片付けられるようにしたいという思いで始まったワークショップです。
実際、平成30年7月豪雨災害では、すぐに支援が開始されたのは主要道路に面した場所。家の前などで、私道に面した場所への支援は遅れていました。手作業で片付けるしかなくて大変な思いをしたから、自分たちが重機を使えるようになれば、有事の際に役立つと考えられたそうです。
―PBVとして、今回の重機ワークショップにはどのように関わっていますか?
川村美保子(以下、美保子):
ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成をうけ、ワークショップを運営しています。持続的なまちづくりの一環として、有事の際や防災における地域の担い手を育成する機械を提供するのが私たちの役割です。
私たち2人は、2019年に千葉で大きな台風被害を受けました。当時は屋根が吹き飛んでいるのに支援がほとんど届かなくて、10日間くらいの空白期間があったんです。世界が終わったような気持ちになったのを鮮明に覚えています。
その後は被災地の支援活動をするようになりましたが、外部の支援団体は、いつか被災地を離れます。地域の人が自ら支援できる方が、復興に向けて継続的に活動できるのは明らかです。
被災した我々だからこそ、地域の人が自ら支援活動を行う大切さを伝えられると思っています。
―今回はどのような流れで重機ワークショップを行なっていますか?
勇太:
ワークショップに参加する前に、3t未満の小型重機の運転に係る特別教育を受け、修了証を取得していただいています。この修了証が資格のようなものです。
全3回のワークショップのうち、今日(2023年1月29日)は2回目です。令和4年の夏頃から令和5年3月にかけて行なわれます。期間中は、重機ほか草刈り機やチェーンソーの講習もする予定です。全ての講習を終えたら、箭田地区に重機を配備するのを1つのゴールとしています。
―1回目のワークショップと比較し、参加者の変化はありますか?
美保子:
みなさん少しずつスキルアップされていると思います。土をダンプカーに乗せたり、複数台の重機で連携して作業を行うなどしたり、災害を想定し実践的な操作を行える環境があることは、大変貴重なことです。
ただ、重機は便利なものである一方で、操作するうえでは大変な危険を伴います。重機を扱う危険性を共有しながら、ワークショップを進めようと心がけています。
―災害時から継続的に真備を支援されていますが、復興の過程を見て思うことを教えてください。
勇太:
箭田まち協さんは、国土交通省 高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所さんと一緒に小田川河川敷を整備してきた経緯をお持ちです。地域と行政が共同で防災に取り組めるのは恵まれた環境だと思います。
防災に関して、真備では地域の皆さんがお互いに高めあい、支援者の育成が進んでいます。他の地域で災害があったときにも、ぜひ力を貸してほしいです。
重機を使って景観を変えると、希望が生まれる【オープンジャパン】
―重機ワークショップに携わるうえでの思いを教えてください。
萬代(敬称略):
被災地で活動している我々が、災害発生時に重機を使う危険性と必要性を広めていかないといけないと思っています。
そもそも、災害支援団体は人手不足です。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ボランティアさんも集まりにくい状況。誰が重機を操作するのか、常に課題意識があります。オペレーターさんがすぐに被災地へ行けるとは限らないから、地元の人自らが重機を操作できるといいと思うんです。
地元の人が、自分たちの力で家を再建できる状態にする。我々のような支援団体が全てやるのではなくて、あくまでもサポートする体制をつくれたらと思っています。災害は起きてほしくないけど、いつ起きてもいいように、今から準備しておくのが大切です。
―重機の講習を行なううえで、必ず伝えていることはありますか?
萬代:
工事現場などで仕事として重機を操縦するときと、被災地で重機を操縦するときでは心構えが全く違うとお伝えしています。
仕事では、効率性を求めるがゆえ安全管理を徹底しています。立入禁止区域を必ず設置し、作業場の近くに人がいないのを前提に操縦するんです。
一方被災地では、重機の近くに人がいます。むしろ人力作業と連携して重機を操縦することが多く、人とコミュニケーションを図るのが前提です。さらに、重機がどのような動きをするかを知らない素人の方々が、周りにいるうえで操縦することになります。
それでも重機を使う理由は、いち早く住民のみなさんが自立して生活するための支援ができるからです。危険性と必要性が常に隣同士にあります。
―今までも重機を使って被災地支援をしてきたと思いますが、印象に残っていることはありますか?
萬代:
被災地で重機を使って1日〜2日で土砂を取り除いたとき、そこに住んでいた方が「もう1度、ここに住んでみようかな」と希望を持ってくださったことがありました。
家が土砂に埋もれると「ここにはもう住めない」と諦めてしまいがちです。でも土砂がすぐになくなり、景観が変わると、住民の気持ちにも変化をもたせました。慣れ親しんだ場所に住むのを諦めるしかないところから、「もう一度住む」という選択肢を増やせるんです。
被災地では、1人ひとりの住民と徹底的に話し、意向に沿ったやり方で支援していく。我々がやっている重機を使った被災地支援は、仕事ではありません。
―真備で重機ワークショップを開催した感想を教えてください。
萬代:
真備のみなさんは、被災した経験から「重機は使えた方がいい。次に災害が起きたときは、自分たちでなんとかできるように備えたい」と思っていらっしゃいます。
さらに、身に付けた技術を生かして、他の地域で災害が起きたときに支援者として動きたいと思っている。支援を受けた側が支援する側になる様子を見ると、活動してきてよかったという気持ちになります。
私は宮城県石巻市の出身なので、東日本大震災を経験しているんです。私も自分が被災した経験を経て、支援する側になりました。被災者から被災者への支援は、何よりも思いが伝わると思います。
今日でワークショップは2回目ですが、参加者の表情を見ていると、少しずつ自信を持てているのが分かります。今のうちから備えておくと「次に災害が起きたときはこうしよう」とビジョンができていくんです。ビジョンがあると、自信を持って避難できるようになります。これが何よりも大事です。
そして他の地域で災害が起きたとき、一般のボランティアさんではなく“技術を持ったボランティアさん”として活動できます。支援者が地域で育つことは、我々にとっても心強い限りです。
全国のみなさんから受けた恩を返したい【箭田まち協】
―なぜ重機ワークショップを開催しようと思ったのですか?
守屋(敬称略):
平成30年7月豪雨災害のとき、人力と重機との差を目の前で見ていたからです。
私は人力で、大勢のボランティアさんの力を借りながら何日もかけて片付けたのですが、重機を使って片付けた家は2〜3日で作業を終えていました。だからこれから災害が起きたら、絶対に重機が必要だと思ったんです。
またテレビで、長野県で活動している日本笑顔プロジェクトを知りました。災害時に重機を使って応援に行く活動を知って、「これだ!」と思いましてね。災害時に全国のみなさんから受けた恩を、どうしたら返せるかとずっと考えていて……。重機を使う技術を身に付けるのが一番だと考えました。
―重機ワークショップは河川敷で開催しているのですね。
守屋:
ここは箭田まち協が、国土交通省 高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所さんと一緒に樹林化防止活動をしている場所です。普段は業者さんのみが重機を使って整備していますが、私たちの重機の練習場としても使えるよう相談しました。近くで開催していると、参加しやすくていいでしょ?
日本笑顔プロジェクトのような活動をしたいと言ったら、みなさん大賛成してくれました。まずは技術を身に付けられる場を作ろうと、ワークショップを実現できたのが嬉しかったです。
―重機ワークショップに参加した感想を教えてください。
守屋:
練習はとても楽しいですよ。これまでに50名のオペレーターが誕生しました。人力での片付けは力がないとできないけど、重機なら年配でも子どもでもできます。PTAさんなど若い人も誘って、みんなで活動できるのが楽しいです。
しかもオープンジャパンさんは、重機で災害支援を行なうプロじゃないですか。技術だけではなく、被災地での重機支援の意義を聞かせてもらっています。土砂が入った家をきれいにして、諦めるしかないと思っていたのに家を再建できた話には感動して!重機が使えると今後どれだけ役立つかと、身に沁みて感じました。
―全3回のワークショップを終えると重機が届くそうですね。今後やっていきたいことはありますか?
守屋:
スキルアップを続けて、目指すは重機ボランティアです。
災害はどこで起きるか分かりませんが、必要だったらすぐ「応援に行くぞ」と言える仲間づくりをしていきたいです。ただ重機の資格は数えきれないくらいあるので、1つひとつ取得して、いざというときには動けるようになり、いただいた重機を大切に役立てたいです。