真備洗浄 Vol.1 〜3年半の活動は、みなさんの努力で成り立っている〜
全地域 活動報告
平成30年7月豪雨災害が発生したとき、真備地区には団体・個人問わず多くのボランティアが訪れ、復興に向けてさまざまな取り組みがおこなわれていました。発災から3年半以上が過ぎ、ほとんどの活動が終了を迎えているなか、現在も活動を続けている団体がいくつかあります。
そのひとつが、真備町写真洗浄@あらいぐま岡山(以下、真備洗浄)です。活動を始めたひとりでもある福井圭一(ふくい けいいち)さんに話を聞くと、真備洗浄で出会った仲間への敬意を何度も口にしていました。
活動を続けてきたからこそ感じる、写真洗浄の魅力やまちの3年半の変化にも注目です。
メンバーの自主性があって続けられた
―真備洗浄は、どのような活動ですか?
福井:
平成30年7月豪雨災害で被災したみなさんの写真をお預かりし、泥などを落として洗ってから、お返しする活動です。
累計30万枚以上の写真を真備で洗浄していると思います。災害から3年半が経った今では、お預かり総件数は670件くらいです。現在の預かり状況は常時約30件前後で、返却してはまた預かり、預かってはまた返却してと、続いています。真備にはまだ要望があります。家を再建し、生活が落ち着いてから写真整理を始めたという方も多くいます。生活の再スタートとともに、これまでの歩みを振り返り、整理している。それはとてもよくわかることです。整理というのは片付けとはまた違うものだと思います。
活動しているみなさんは、ボランティアで関わってくださっています。よく来てくださるのはだいたい20名前後ではないかと思います。倉敷市内に住んでいる方が多く、岡山、総社など近隣地域の方が多いです。活動は自由参加形式にしていて、活動日にはそれぞれが時間があるときにこの場所に来て、作業しています。常連の方は活動日以外に作業していることもあります。
―地元の方々が活躍されているのですね。
福井:
今は特にそうですね。車で30分以内のところに住んでいる方が多いと思います。新型コロナの影響が大きいです。遠くから来てくださる方が来づらくなってしまったこともあり、その分、地元勢ががんばっています。世代は違えど、みなさん同僚みたいに話をしているのがいいなって思っています。
写真洗浄以外のことも結構ここから派生していて、輪が広がっていくのが面白いなと思ってます。活動があるということは、人間関係発生源でもあるので、たくさんの関係が生まれます。面白いですよね。グループ活動あり、個人活動あり、それぞれの関係があり。活動日の雰囲気も曜日によってまた違っていたり。面白いです。そういう意味では弾んだ人間活動だと思ってます。
よく来られる人の中に、ボランティアの精神的支柱となっているような紳士がいるんですが、僕は心のなかで「ゼネラルマネージャー(GM)」と呼んでいます。
お仕事を引退された後、ずっと真備洗浄に参加されていて、僕は本当に頼りにしてきました。存在が大きかったです。活動を土台から支えられています。「真備洗浄で生きがいを見つけた」と話してくださいました。嬉しかったですね。活動日以外もここに来ていることが多く、こつこつと作業されてきました。その姿勢が、みんなに慕われていますね。僕らは家族経営の事業をしているような感じですね。お父さんがああしているから、僕はこうしてみようとか。お互い影響しあっています。そんな感じで、至る所で人間関係が生まれていると思います。それが今の真備洗浄です。
僕としては、こうしてみなさんで真備洗浄をつくってくださっているのが嬉しいです。活動を支えているのはここへ来ている皆さんです。
真備洗浄から見た、災害からの3年半
―真備洗浄の活動を通して、発災時から今までの真備を見てきたと思います。3年半の変化をどのように感じていますか?
福井:
時期によって大きく変わったと思います。ここ1〜2年でたくさんの人が真備に戻ってきました。
2019年初頭くらいには、被災家屋がほぼなくなって、真備地区のいたるところが空き家や更地になった時期がありました。ゴーストタウンのような状態で、とても寂しかったです。昼間はそれなりに業者の人などがやってくるけど、夜は真っ暗で市街地のはずなのに、家の明かりがほとんどなかった時がありました。やっぱりここは被災地なんだなということを感じていました。それがだんだん町のあちこちに灯りが点き始め、「あそこのお家、灯り点いてる! 嬉しい!」と喜ぶ瞬間が増えてきました。
やっと真備が動き始めた。そう思った途端に今度は新型コロナウイルスが拡大していきましたね。正直苦しかったです。せっかく動き出したのに皆で集まれなくなり、学校も分散登校になったり、お子さんがいるご家庭は特に厳しかったと思います。みんなコロナに振り回されていました。真備洗浄も大いに影響受けました。
―時期によって、写真洗浄の活動に変化はありましたか?
福井:
ありましたね。発災から最初の半年くらいは家の片付けをしている方が多かったので、どんどん写真が集まりました。僕たちの手が回らないくらい、預かりがありましたね。丸1年は依頼が絶えなかったと思います。
その後の預かりは一旦落ち着きを得てきたように感じました。このまま少なくなり、活動も終わるのかなと思いきや、2年目以降ですかね、再び増えました。家の再建を経て町に戻ってくる方が増えた時期と重なります。ドンと増えたというより、じわじわと預けられる方が続いてやってくる。そんな感じですね。散歩の途中で発見したとか、人から聞いたとか、そんな人も居ました。いつの間にか「より身近な活動」になっていたんじゃないかと思います。地域が再開を始めた証と思います。
活動も災害支援的な立ち位置から、地域支援的な立ち位置に変化してきたと思います。災害があったからこの活動があるんですが、より身近な相談センターとして機能していたと思います。真備洗浄まだやってるらしいぞ。預けてみようと。
写真は後からくるんですよ。一生もんでずっと引きずります。家が新しくなって終わりではなくて。平常が戻ってから始まる作業。その後があります。そういうところに写真整理が発生しているんじゃないでしょうか。
身近に困っている人が居たから続けた。僕としてはそれが本音です。まだできそうだなというのもあったし。そのことを分かっていたのは、この地でもう僕らくらいしか居なくなっていました。求められていたと思います。人と話す度に感じました。
「支援」っていうと上から降ってくるようなイメージですけど。僕はもっと身近にありふれたことのように感じました。隣に困ってる人がいたら手を貸すことにした。そんな実感です。
2年目以降“ローラー作戦”と言って、1軒ずつ家を訪問して聞き回りする取り組みを始めました。「写真洗浄、まだやってるんですが、ありますか」という。
こんなお節介で手間のかかることを始めたのは、放置したまま時間が経過してしまった方が多いなと感じたことがあります。写真なんて通常二の次です。一旦は忘れます。しばらく町外に出ていた方が多く、時が断絶した感覚がありました。
作業をしていると、写真に写る重要な瞬間に沢山出くわします。本人も忘れているような記録に、他人の僕らがまず再会するんです。
納屋に眠っているアルバムに、そんな写真もあるかもしれない。それは伝えたかったですね。
ローラーして分かったことは、多くの方々が既に写真を手放していたということでした。そして取っておいた方も多いということが知れました。両方事実です。
事実と向き合う作業をしています。
写真は乾いていれば、時間が経っても大丈夫ですので。今からでも処置は遅くありません。
真備洗浄の活動を通して伝えたいこと
―その時の状況に合わせて、活動を続けていたのですね。
福井:
皆さんが貴重な自分の時間を割いて活動に参加していることに、ぼくは心から敬意を持っています。
これらの写真、見てください。残るんですよ、汚れていたとしても。きれいに洗うことで、真ん中だけでも残ります。
―真備地区に住むみなさんへ、伝えたいことはありますか?
福井:
「もし写真があったら取っておいてほしいな」ということを伝えたいです。
被災後の写真を見て諦めてしまった方は多いです。暑さと疲労、当面の困難で考える余裕すら奪われました。悔しい思いをした方が多いです。それを思うととても心苦しいのですが、だからこそ敢えて言いたいんですが、大切な写真はぜひ取っておいてくださいと伝えたいです。今後災害があったらもちろんですし、同じような境遇の方がいたらそれを伝えてください。手元にもしあれば、写真洗浄してもう一度アルバムに入れてみてください。これは手に負えんなと思ったら、真備洗浄に預けてください。それを伝えたいです。
それから「ご家庭でも写真洗浄はできるので、ぜひやってみてください」と伝えたいです。個人的には写真洗浄DIYを推奨してます。写真洗浄は作業そのものに実りがあるんです。家族写真洗浄はいいですよ。洗いながら、自分たちの歩みを振り返ることができるんです。家族に見せるのは恥ずかしいなという方は、ご自身でやってみてください。何かを見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。分からないことがあったら聞いてください。道具もお貸しします。気張らずにやってみてくださいね。
―家で写真を洗浄するには何を用意すればいい?
福井:
桶があれば写真洗浄できます。水を入れる容器。洗面器でもバケツでも。家にある手近なものでいいです。なければ100円ショップで売ってるもので十分です。僕らは活動なんで、いろいろ使ってますけどね。本当は桶と水だけでいいんです。大方の写真は水で洗えます。桶に水を張り、浸食している端の方からゆっくり洗ってみてください。
洗っていたらどんどん落ちちゃうなぁと思ったら、そこで洗うのを止める。そんな感じで、大切な像を残す感じで洗っていただければいいと思います。端の方からやってくださいね。
洗い後の写真はよく乾かして、アルバムに入れてください。一度被災した写真は、綺麗になったようでも結構ベタベタしてるんですよ。重ねて保管するとくっついて固まってしまうこともあります。なるべく早めにアルバムに入れるようにしてください。
結構溶けちゃってる写真もあると思います。ポロポロ崩れてくる写真、額から剥がれなくなった写真など。処置が難しそうだなと思ったらカメラで写真を撮る。そういう残し方もあります。写真の写真を撮ります。一眼レフがあればいいですが、なければスマホでもいいです。最近のスマホカメラは高性能で、結構綺麗に撮れますよ。
どんなやり方でもいいですから、像を残すことを念頭にやっていただければ、大切な思い出は残せると思います。
そしてこれは、発災直後のことですが。写真アルバムを「乾かす」ということを覚えておいてください。何よりも大切です。濡れたままにしていると写真はどんどんバクテリアに浸食されて、表面が溶けてしまいます。水に濡れたらまず乾かす。覚えておいてください。
写真が乾いていればそれ以上は浸食しませんので、焦らずゆっくりやってください。心配でしたら真備洗浄に持ってきてください。道具もありますし、一緒にやることもできます。